7月10日(日)の横浜文化体育館大会で、パンクラス・前ヘビー級王者の高橋義生選手(パンクラス)との対戦が決定している桜木選手ですが、そのvs高橋戦のお話をうかがう前に、先ずは前回の試合、3月・横浜文化体育館大会でのvs郷野聡寛(GRABAKA)戦についていくつかお聞きしたいと思います。メインイベントで行われたvs郷野戦は、パンクラスのリングでありながら【全日本キックボクシング連盟公式試合】としてキックボクシング・ルールで行われた試合でした。そして戦前には郷野選手ならではの桜木選手に対する挑発的コメントや、郷野選手と渡辺久江選手(フリー)とのやりとりなどもあり、そういったサイドストーリーも含めて非常に注目を集めた一戦となりました。そこで、先ずはそのvs郷野戦を振り返っていただきたいと思いますが、桜木選手にとって郷野選手との試合は、どのような意味を持つ試合になったのでしょうか?
桜木裕司:ん〜、まぁ、新しいタイプの選手というか、僕が今まで闘った事のないようなタイプの選手だったので、すごい勉強になった部分もあるし、エンタテインメントというか、格闘技のプロとしての部分でも色々勉強させられたところがありますよね。だから全体的に「プロとは何なのか?」というのも含めて教えてもらったような感じがします。僕が出せる色とは違うのかなと。でも、そこは逆に対極的でわかりやすくて良かったのかなとも思いますね。

試合前にお話を聞いた時、桜木選手は郷野選手の事をとても高く評価していて、「胸を借りる」的な発言もありましたが、実際に対戦してみて郷野選手に感じた事ってどんな事でしょうか?
桜木裕司:やっぱり「上手い」の一言ですよね。上手さという点では、今まで闘ってきた選手の中で一番上手い感じがしました。だから次また対戦してもどうなるのかはわからないですね。ただ、苦手なタイプではないっていうか、格闘技をやってて楽しめる試合、センスを磨き合える試合かなって思いました。

1ラウンド目に先ずは桜木選手がダウンを取られて、そして2ラウンド目にダウンを取り返してのKO勝利でしたが、最後の右のパンチは狙っていたのでしょうか?
桜木裕司:まぁ、狙ってたっていうか、ああいうパンチはチャンスがあればいつでも出せるようにって感じで、狙って出すというよりは、その瞬間その瞬間のチャンスで勝手に出るか出ないかっていうものですよね。

桜木選手のセコンドに付いていた小林 聡選手(藤原ジム/WKA世界ムエタイ・ライト級王者)が、試合後にフィニッシュになったパンチの事を「見えないパンチ」とおっしゃってましたが、普通のパンチとは打ち方とかが違うのでしょうか?
桜木裕司:そうですね。ロシアンフックの特性というか・・・。日本の選手はあまり味わった事がないと思うので。初めて喰らう人は多分ビックリするかなって。でも、僕はずっとロシア人選手と試合をしてきているので、わかり始めるとわかるんですよね。その違いがあると思います。

ロシアンフックと言えばイゴール・ボブチャンチン選手(フリー)のイメージがありますけど、ロシアの選手の中では結構広く使われているな技なのでしょうか?
桜木裕司:そうですね。エメリヤーエンコ・ヒョードル選手(レッドデビル)なんかもそういう感じで打ってますよね。元々はアマチュアボクシングからみたいで、アマチュアボクシングはナックルの部分、(グローブの)白い部分を当ててポイントを取るじゃないですか。それを一番有効に当てる事が出来る打ち方から進化していったっていう話を聞いたんですけどね。だからアメリカの選手とかが見ると「何だ、あの打ち方は?」ってなるみたいですよ。日本人でも、ボクシングの選手だとそう言うかも知れないですね。でも、向こうでは当たり前だし、今はヨーロッパの方でもそういう打ち方が流行り始めているらしいですね。

「見えないパンチ」で見事なKO勝利をおさめた桜木選手ですが、試合後の周りの皆さんの反応はいかがでした?
桜木裕司:やっぱり喜んでくれてましたよね。また一つ上に進めるのかなっていう部分で。名前のある人と試合をすると、その部分は大分変わってくると思うので。桜木裕司という人間をもっともっとたくさんの人に知ってもらって、掣圏真陰流というものと、桜木裕司という人間は佐山 聡の弟子なんだという、そこをもっともっと世の中に出していく為にも、まだまだ上に上に・・・。まだ、ある意味、日本国内の戦国時代を闘っているような感じなので、早くこれを終わらせて世界に向けて出て行かないと、もう「時代が終わっちゃうかな?」(苦笑)って事になってしまうので。だからドンドンドンドン行ける時に行って。あまり時間はないと思っているので。無駄にしてきた時間が大分あったので、それを取り戻すためにも、早急にもっともっと強くなって上に行きたいっていうのがありますね。




わかりました。では、7月10日(日)横浜文化体育館大会でのvs高橋義生戦についてうかがいます。今年2月の後楽園ホール大会では謙吾選手(パンクラス)をKOで下し、そして3月には郷野聡寛選手を同じくKOで破りました。パンクラスマットで2試合連続KO勝利をおさめて、今回の3戦目の対戦相手に、パンクラスの前(初代)ヘビー級王者である高橋義生選手が決まりましたが、対戦相手に高橋選手が決まった時のお気持ちはいかがでした?
桜木裕司:いや、もう、ホント「嬉しい」の一言ですよね。このタイミングで、高橋選手が置いていったヘビー級のベルトをこれから他の選手たちと争っていく中で、やっぱり高橋選手を倒さない事にはチャンピオンという実感が湧かないというか・・・。だからその前に高橋選手と闘ってしっかり倒しておけば、ヘビー級のベルトを獲った時に周りも本当のチャンピオンだと認めてくれると思いますし。まぁ、本人だけが思っているチャンピオンになってもしょうがないと思うので。やっぱり周りに「チャンピオンの中のチャンピオン」って思ってもらえるようにならなきゃいけないと思いますし。今、これだけ格闘技が流行っている中で、僕が目指しているもの、求めているものと世間とのギャップが大分あるので、そういう部分で、僕が好きだった時代というか、憧れていた選手たちの意思を継承する丁度良いタイミングかなって思いますね。ここで高橋選手と対戦して、それで何かを得て、次の時代に対してしっかりそれを示して、その先輩たちが見ても、「桜木がいるから今の格闘技界もどうにかなるかもな」って感じで思ってもらえれば一番嬉しいですよね。その辺の若いモンがチヤホヤする選手じゃなくて、今まで苦労して、今の格闘技界を盛り上げてきた人たちが認めるような選手になっていきたいですし。やっぱりそこが本当の世界かなって。ただミーハーな感じで観る事が、流行だ何だじゃなくて、「本当の闘いってどうなんだ?」っていう部分を、本当に純粋に示していければ良いかなって思います。

高橋選手にはどのような印象をお持ちですか?
桜木裕司:ん〜、“漢(おとこ)”ですよね。やっぱり。潔いっていうか。それに何より、今格闘技をやっている人って、スポーツ選手的な感覚の人が多いじゃないですか。そういう中で高橋選手は、僕の中では“喧嘩師”ってところがあるので。やっぱり格闘技をやっている以上、喧嘩が出来る気組みがないとダメだと思うし、そんなスポーツライクにやってるようじゃ・・・。それが僕の考えであって、その部分を高橋選手にはビシビシ感じるので。「いつでもヤルぞ」っていう、本当に喧嘩はしなくても良いんですけど、喧嘩が出来る心っていうか・・・。それは僕が『極真空手』をやっていた時から大山(倍達)総裁が「喧嘩が出来る気持ちがないとダメだ。男だったら」って言ってましたけど、ホントにそれは未だに思いますし。格闘技ってそんなに甘いモンじゃないよって。喧嘩が出来なきゃダメだよって。強かろうが弱かろうが気持ちの問題で、俺は負けるかも知れないけど殺す気でいくぞっていう、その鬼気さえあれば、もしその辺の街中でからまれても、その“気”っていうのは伝わると思いますから。だから自分の所の若い生徒とかにも、「喧嘩が出来る気持ちを持たなきゃいけない」って教えていますし、僕も教えている以上、それを常に持っていたいし。それを高橋選手と闘う事で、高橋選手という大先輩から本能で感じたいですね。本能でも感じたいし、皮膚感覚でも感じたい。五感を研ぎ澄まして感じて、それをまた僕の力にしていきたいって思いますよね。この間も友達と話をしましたけど、自分が中学生ぐらいの頃から高橋選手を観ていて、中学生の頃に『藤原組』のポスターが自分の部屋にいっぱい貼ってあったんですよ(笑)。だから今、高橋選手と試合が出来るのは不思議な・・・本当に一個人としてはものすごく嬉しいですよね。でも、団体を背負う者としてお互い看板がありますし・・・。まぁ、僕としては“漢”と“漢”の喧嘩ですよね。果し合いっていうのもおかしいですけど、僕の中では喧嘩だと思ってます。技術とか、そういうのを越えた部分で闘いが出来るところまで来たのかなって思いますし、これを味わうのとそうでないのとでは、絶対に今後の僕の人生が、大分変わってくるだろうなっていう一戦になると思います。今回の高橋選手との試合を、一般の人たちが観てどう思うかはわからないですけど、女の子とかはあまり観る世界じゃないかも知れないですね。僕の中ではホント、梶原一騎さんの劇画の世界ですよね(笑)。そこに入り込んだような感じがします。そこでしっかり勝ちたいですよね。これを味わうかそうじゃないか? これを乗り越えるか乗り越えないか? この試合を経験する事で変わるっていうのは、今もう、既に確信してますね。もちろん絶対勝ちにいきますし、勝つ事で高橋選手の意思を受け継ぎたいと思いますけど、でも、それを越えた部分にもきてるっていうか。対戦が決まって今日まできて、既にもう、僕の中で大分変わってきていて、これを越えたら確実に大きくなれるっていう。こういうチャンスって、普通に生きててそうはないと思うんですよね。ホントに幸せですよね(笑)。格闘家冥利に尽きるというか(笑)。

今回のvs高橋戦は、3月のvs郷野戦と同じく会場は横浜文化体育館で、しかもメインイベントで青コーナーからの登場というところまで同じですが、その辺は意識しますか?
桜木裕司:いや、特にないですね。ただまぁ、横浜は遠いなって(苦笑)。でも、会場が大きいっていうのは嬉しいし、そこのメインに2回も出場させてもらえるっていうのはすごい有り難い事だし。もちろん高橋選手あっての事だと思いますが、その相手に選ばれたのも嬉しいですね。「嬉しい」の一言です(笑)。

では、今回のvs高橋戦で、桜木選手はどこに注目して欲しいと思っていますか?
桜木裕司:瞬き出来ないような、瞬きしてる暇がないような感じだと思いますね。試合が始まってからはもう。だからしっかり目に焼き付けて欲しいです。パンクラスの歴史に残るような試合になれば一番良いですよね。僕の中では、船木選手(船木誠勝)と鈴木選手(鈴木みのる)が闘った試合(1994年10月・両国国技館)に近い、あの緊張感を持って、昔のパンクラスのような、「パンクラス=秒殺」というような、ホント一瞬で決まる、技術云々じゃないところにきているような気がしますね。お客さんにはそこをしっかり見逃さないで、それで帰って欲しいですね。




わかりました。では、今回のvs高橋戦からはちょっと話題が変わりますが、5月24日に行われた記者会見(『リアルジャパンプロレス』旗揚げ戦、掣圏真陰流トーナメント発表記者会見)の中で、「高橋選手に勝って、それでヘビー級1位の野地竜太選手(パンクラスMEGATON)とベルトを争いたい」という発言がありました。また、「野地選手とは元々『極真』で同期だった」ともおっしゃっていましたが、野地選手との関係をもう少し詳しく教えていただけますか?
桜木裕司:ん〜、そこまで深い関係ではないですけどね。ただ『極真』で道場が一緒だったっていう。でも僕がそこにいた期間は短かったので。それに野地君の方が全然名前があるので、こっちが知った気になってるだけかも知れないですけどね(苦笑)。

どちらの道場だったのですか?
桜木裕司:城西の三軒茶屋の道場ですね。『極真』の。でも、僕は2ヶ月ぐらいしかいなかったんですよ。その後僕は城南の方に行っちゃったので。それで何年か前の『K-1 グランプリ』の東京ドーム大会を観に行った時に、たまたま野地君が目の前の席にいて。それで話をしたら憶えててくれましたね。それから僕がパンクラスに上がるようになってって感じです。

野地選手に何か“縁”のようなものは感じますか?
桜木裕司:まぁ、やっぱり歳が近いっていうのと、僕が高校3年生で『極真』の高校生の大会で優勝した時に、野地君はその大会に出なくて、僕が優勝したその大会の後にある「全日本大会」に出て、それでベスト16に入った時には「ちょっとこの人ズルいんじゃない」(笑)って思いましたよね。そんなの聞いてないよって(苦笑)。こっちは大学受験があったので、その高校生の大会が最後の大きな大会で。だから困りましたよね。急に出て来て、話題を全部そっちに持っていかれるじゃないですか。それから野地君はドンドンドンドン注目されて、その姿を見ながら「いつかやらなきゃな、やらなきゃな」ってずっと思ってましたね。

では、城西の道場で出会う前から、野地選手の事は意識していたという事ですね?
桜木裕司:そうですね。実際知り合ってからも、野地君はずっと『極真』を背負ってやってたので、やっぱり意識しますよね。それに歳が近いっていうのが何よりありますから。あとは・・・僕が高校生だった時に、同世代の中で一番名前のある選手だったので。

7月10日に高橋選手に勝ち、それで少なからず縁のある野地選手とベルトを争って、そして野地選手を破ってヘビー級のベルトを巻きたいと。
桜木裕司:そうですね。それともう一個あるんですよ。贅沢が(笑)。贅沢な夢が。ヘビー級のベルトを獲って、それで無差別のジョシュ・バーネット(新日本プロレス)ですよね。ジョシュ・バーネットと対戦出来れば一番良いかなと。最終的にはやっぱり無差別でジョシュ・バーネットと対戦したい。近藤選手(近藤有己/パンクラスism)や高橋選手との試合も観てますし、やっぱり彼を倒せるようになりたいですよね。

それは無差別級のベルトに興味があるのか、それともジョシュ・バーネット選手に興味があるのか。
どちらでしょう?
桜木裕司:いや、両方ですね。元々空手を始めた時に、やっぱり『極真』っていうのは、無差別で、小さい人間が大きい人間を倒すのに夢があるっていうのがあって。今ヘビー級にいる理由も、たまたま体重がヘビー級っていうところにあるだけなので。それにパンクラスは元々無差別だったし、そういう制限がないところの強さにやっぱり挑んでいきたいっていうのがあって。ん〜、無差別級っていうのは、そこに男の浪漫を感じるし、そこにチャンピオンがいる以上、やっぱり目指していきたいですよね。まぁ、それはまだ夢ですけど。もちろん今度の高橋選手との試合に勝ってからでの話で。その後に野地君との試合もありますし。でも、見据えるという事ではそこまで見据えて、あとは自分を上げていくだけで。それが出来れば一番良いですね。

わかりました。では、これで最後です。今回の桜木選手の試合を楽しみにしている皆さん、そして桜木選手を応援しているファンの皆さんへメッセージをお願いします。
桜木裕司:あの〜、やる事はやりましたので、精一杯頑張ります。あとは・・・見届けて下さい(笑)。

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