7月10日(日)の横浜文化体育館大会で、身長差24cm、体重差約60kgの無差別級戦が決定している佐藤選手ですが、小椋誠志選手(パンクラス チーム玉海力)とのその対戦のお話をうかがう前に、今年に入ってからの佐藤選手のこれまでの流れを少し振り返っていただきたいと思います。先ずは今年1月の第2回『プロ・アマオープン キャッチレスリングトーナメント』の100kg未満級で見事優勝しました。しかし、その一回戦で膝の靭帯と足首を負傷してしまい、5日後の2月4日・後楽園ホール大会は「ドクターストップか?」と懸念される中でケガを押して出場。体重差16kgの小谷野澄雄選手(烏合会)との無差別級戦に挑み、パンクラスマットでは自身初の打撃でのTKO勝利をおさめましたが、中4日で、しかも非常に厳しいケガを抱えながらキャッチレスリングを3試合、総合1試合を乗り越えた当時の状況を、今はどのようにご自身では考えていますか?
佐藤光留:自己/事故ドラマでしたね(笑)。自ら己の自己と、交通事故の事故。結局、僕が小谷野選手に勝った時も、伊藤(崇文)さんと謙吾さんの試合の方が大きく扱われましたし、『プロ・アマ キャッチ』に至っては、北岡(悟)に太田選手(太田洋平/和術慧舟會A-3)が勝った事の方が大きかったですからね。だからまぁ、ホントに、自分の中では色々収穫があったんですけど、世間的に見たらそうでもないんだなっていう。だからもう、とっとと忘れていかないと(苦笑)。いや〜、悔しいな(笑)。でも、あれが、外で観ている人にも報道されるような選手にならないといけないですよね。あれ、漫画だったらホントに号泣ですよ(笑)。良い漫画が出来るのにな〜、あれ。

・・・(苦笑)。苦難を乗り越えて勝利を掴んだ、非常に心を打つ4連戦でしたが、佐藤選手の周りの皆さんの反応はいかがでした?
佐藤光留:近藤(有己)さんが喜んでくれた事が嬉しかったですね。『プロ・アマ キャッチ』の日に近藤さんはレフェリーもやってたんですけど、丁度その日に別の所でイベントがあったので途中で抜けたんですね。その日、パンクラス関係の選手で僕の試合を観てくれたのが、セコンドの渡辺(大介)さん・・・とか(笑)。ぐらいかな。結構前の事なのであまり憶えてないんですけど(苦笑)。やっぱりみんな北岡の方が安全パイじゃないですけど、そう考えてたところがあったみたいで。逆に僕は中4日で試合をやるっていう、いつもの、「本当にあなたは大丈夫ですか?」みたいな(苦笑)、そういう発言を繰り返してたので・・・。そういう中で北岡が決勝で判定負けした時に、周りの空気が、周りの「佐藤しかいないんだ」みたいな、諦めムードみたいなのを感じましたね(苦笑)。

佐藤選手の決勝の相手は内藤征弥選手(和術慧舟會A-3)でした。
佐藤光留:内藤選手ですからね。それに膝の状態も、太ももと脛が膝を中に置いて違う位置にありましたから。完全にズレてたんですよね。ホント歩くのも困難でした。まぁ、あの時はホントにもう、「あぁ、自分しかいないんだ」って、素晴らしい勘違いっぷりだったんでしょうね(苦笑)。でも、ホントにみんな喜んでくれましたね。「近藤さんが喜んでくれるなんて思わなかった」って言ったら失礼なんですけど(苦笑)、近藤さんが喜んでくれたのはホント嬉しかったですね。鈴木(みのる)さんにも「良かったな」って言ってもらえて。で、「その足は?」って聞かれたんですけどね(笑)。まぁ、ismっていう仲間で、MISSIONの鈴木さんとは師弟関係もありますけど、最終的には個人ですから。「膝が痛い」って言っても、周りの人はわからないじゃないですか。だったら、「わかってくれ」って言うよりも、それで何かを乗り越えて、「膝をケガしててもやったんだな、お前」っていう方が、考え方として明るいと思うんですよね。そういう考え方に丁度変わった時期だったんですよ。色々あって。多分、去年のままの自分だったら、あの2連戦で勝ってなかったと思いますし・・・ケガを押してまでvs小谷野戦には出てなかったと思うんですよね。ちょっとまぁ、あの時期が変革期だったので。だからまぁ、良い時期に試合に出る事が出来て、それで良い結果が出てっていう。

5月の横浜大会で、鈴木選手との突然のエキシビジョンマッチはありましたけど、2月4日のvs小谷野戦を最後に現在まで本戦には出場していません。それはやはり『プロ・アマ キャッチ』でのケガの状態が良くなかったからでしょうか?
佐藤光留:まぁ、でも、5月の大会で鈴木さんにエキシビジョンながら「来い!」って言われた時には動けてましたからね。だからその辺で試合のオファーがなかったのと、6月が大森大会(ゴールドジムサウス東京アネックス)だけだったって事で。でも、「大森で試合させてくれ」とは会社に言ってたんですけどね。それで「7月もやるから」って。まぁ、6月は結局なくなりましたけど。

5月・横浜大会での鈴木選手とのエキシビジョンマッチですが、突然名指しされた中で「良くぞ出たり」という感じもしました。
佐藤光留:いや〜、あそこで出なかったら、もう退団ですよ(笑)。

とても短い時間でしたが、たくさんのお客さんの前で、エキシビジョンながらも鈴木選手と攻防を繰り広げましたけど、闘っている最中はどのようなお気持ちでした?
佐藤光留:いや、もう、超〜必死でしたよ。ただ、あんなに早くスタミナがなくなる事ってなかったんですよね。まぁ、アップもしていないっていうのもありましたし、気持ち的な部分でもそうなんですけど・・・。本当にガムシャラに足を取りにいってましたね。ビデオで映像を見たらエラい単調な攻めでした(苦笑)。倒すでもなく、足を取るわけでもなくっていう、中途半端な感じがイカンかったなって。そういう目でしか見れないですね。あのエキシビジョンに関して、「最初から決まってたんでしょ」って言う人もいましたけど(苦笑)。まぁ、そういう人たちには一生わからないんだろうなって思ってますけどね。鈴木さんが僕を殴った時も(昨年10月・後楽園ホール大会)、「あれは決まってたんでしょ」って言う人がいましたから。まぁ、ホントみんな、日頃から良いモノ食ってないんだな〜みたいな。格闘技的に。『PRIDE』とか『K-1』とかを見てるのかわからないですけど、「あ〜、なるほど。そういう見方でしか見る事が出来ないんだな」って。ファンの人から言われるのはまだ良いんですけど、関係者の人からも言われたりして、それはちょっとショックでしたね。だからそういう意味もあって、あの試合でわかってくれた人には、僕を観てて、鈴木さんを観てて感じるものもあると思いますし。「あれで変わった」って言ってた人もいますからね。格闘技の見方が。

闘っている中で、鈴木選手に何を感じました?
佐藤光留:デカかったな〜(笑)。でも、速かったですね。鈴木さんのプロレスは、観る事が出来るのもはず〜っと僕は観てるんですけど、ヘビー級の大きい選手、120kgぐらいある筋肉のお化けみたいな選手を前にして速い人だと思ってたんですよ。でも、そうじゃなくて速かったですね。普通に。パンクラスで言うと、伊藤さんはレスリングが速いんですよ。その伊藤さんより20kg、30kgぐらい重い体なのに、ほぼ変わらないスピードで動いてましたね。

途中でゴッチ式パイルドライバーの体勢にもっていかれそうになりました。
佐藤光留:本当に、完全に、めちゃめちゃガードしましたからね。あんなに必死にゴッチ式ドライバーを耐えたのは僕が初めてでしょうね(笑)。道場ではよく遊びで、「佐藤、ちょっと」って言われたら「はい」って言って、「オラッ!」ってやられたりするんですけど(笑)。でもね〜、スパーリングでもあれをやられたりするんですよね。この間も渡辺さんがやられてました(笑)。渡辺さんがヘロヘロの時に。で、5月の時は本当に僕は殺意を感じましたね。ゴッチ式ドライバーの時(苦笑)。

・・・(笑)。5月にその突然のエキシビジョンマッチがありましたけど、本戦という事では2月4日の試合が最後になります。試合出場の機会がなかったこれまでの5ヶ月間を、佐藤選手はどのような事を考えて過ごしてきたのでしょうか?
佐藤光留:2月の試合の後はとにかく練習が出来ない状態でしたけど、うち(P'sLAB横浜)の選手が一人、2月の終わりの『ネオブラッド』に出るという事で、ミットを持たなくちゃいけなくて。で、3月の横浜大会では北岡の試合があって、それで5月に入ったらすぐにまた横浜大会があって。6月は6月でうち(P'sLAB横浜)の選手が『ネオブラッド』の本戦でデビューして。それでまぁ、これはパンクラスが僕に与えた試練なのか(苦笑)、週7日のインストラクター業が続き、アマチュア大会が頻発しって感じで。だから自分の時間っていうのが、今はほとんど無い状況なんですね。これは比喩表現でも何でもなくて、ホントに朝起きてから夜寝るまでそういう時間がなくて。だから早かったですよ。5ヶ月も試合をしてなかったっていう感じがあまりしないですよね。アッと言う間でした。もう、今年も終わりじゃねぇかって(笑)。そろそろ『男祭り』の話題が新聞を賑わすんじゃないかって(笑)。




・・・(笑)。わかりました。では、7月10日(日)のvs小椋誠志戦についてうかがいます。2月のvs小谷野戦に続いての無差別級戦、しかも体重差が約60kgという、本当に大変な試合になりますけど・・・。
佐藤光留:大変ですよ、これ(苦笑)。でも、鈴木さんに言われたんですよ。「お前がデカいのを連れて来いって言ったから連れて来たんだよ」って(笑)。「いや、言いましたけど・・・」みたいな(苦笑)。

5月13日に行ったこの対戦カードの発表記者会見で、実際に小椋選手を目の当たりにしていますが、その会見の中で「『是非僕にやらせて下さい』と自分から言いました」とおっしゃってました。自らこの対戦カードを志願したその一番の動機って何だったのでしょう?
佐藤光留:あ〜、でも、段々大きくなっていくと思うんですよ。選手が。小谷野選手は僕より体重が15kg重かったですけど、身長は僕よりちょっと低かったんですね。で、そのvs小谷野戦の試合後に控室で鈴木さんが言ったのは、「今度は2mでミドル級の選手を呼んでくるから」って(笑)。「いるのか?」って思ったんですけど、インドネシアには何かそういう選手が探せばいるんじゃないかって話になって。それも面白いなって思ったんですけど、急に無差別級2戦目でエラいデカいじゃないですか。これよりデカいって言ったら、もう曙かボブ・サップぐらいしかいないんですよね。それを考えると・・・まぁ、手っ取り早く、飛び級って言えば飛び級ですよね。デカさに対する。ただ、それだけに未知の部分が非常に多くて、かつてないビビり方をしてますね。怖がる、ビビるっていうのは今までもあったんですけど、そういう意味じゃ階級とか契約体重とかっていうのに、知らず知らずのうちに自分が慣れてたんじゃないですかね。それを打ち破るためにも無差別をやらないと。

小椋選手はただ大きいという選手ではなく、大相撲で前頭10枚目までいった関取だった訳ですけど・・・。
佐藤光留:ねぇ〜。いわゆる相撲界の『PRIDE』で、ず〜っと継続参戦してた人じゃないですか。相撲界の『K-1』で、決勝トーナメントにずっといた人って訳じゃないですか。相撲取りって大きいものだ、大きいのが当たり前だってみんな思ってるかも知れないけど、それは違いますからね。中には太れずに細い人もいるし。あの〜、メチャメチャ多いですからね。相撲人口って。序二段から試合をしている方ってすごく多いですから。そういう中で、あの華やかな舞台に立てるっていうのは、本当にとんでもないって事ですからね。

会見で小椋選手と並びましたが、目の当たりにしての印象は?
佐藤光留:いや、実際は横に立ってたんですけど、チラッと横目で見たら胸でしたからね(笑)。それからというもの、198cmという数字にエラい敏感になりましたね(笑)。「198cmってどんなだろうな〜」って。まぁ、あんまり考えないようにはしてますけどね。140kgっていうのもあんまり考えないようにしてます。アライ(ケンジ)が仕入れてきた情報で、握力が120kgっていうのも考えないようにしてます(笑)。

・・・(笑)。あの〜、どっちがより闘い辛くさせるのでしょうか? 身長と体重では。
佐藤光留:まぁ、両方ですね。だってね、ミドル級でも勝ったり負けたりの男ですから(笑)。ただ、何て言うんだろう? だからこそ面白いって思うんですけどね。デカい奴を持ち上げるって発想が面白いって感じてしまう人種なんですよね。まぁ、それぞれの価値観だと思いますけど。面白い試合をしたら勝っても負けても良いって人もいますし、面白くなくても勝つのが一番だって人もいますし。団体が潤う、個人が潤うのが一番だって人もいますし。それはもう、格闘家っていう括りの中だけでは、何が一番大事って言えないじゃないですか。正直、まだまだ黎明期だと思うんですよね。こういう格闘技っていうのは。それこそ相撲、プロレスに比べたら全然歴史も浅いですから。なのにこれだけ人気が出ている。その状況の中で自分の価値観って言うのは、やっぱり重いものを持ち上げる、デカい奴と小さい奴がやるとか。単純に1月2月の連戦だと、ケガを乗り越えて、ホントに正直有り得ないケガだったんですけど、あれを乗り越えて頑張るって事で。でも、今回はもっとわかりやすく数字で出る訳じゃないですか。こんなムチャクチャな体重差、身長差で、無理だと思われている事をやるっていう。そういう驚きとかをやりたいんじゃないですかね。

普段の練習相手であるismの選手の中には、小椋選手のような体格の選手はいませんけど、何か工夫はしていますか?
佐藤光留:全くしてないです。練習生をもう一人におんぶさせて、170kgを持ち上げる練習はしましたよ。上がりましたよ。全然普通に。そうしたら鈴木さんが「え〜、2人? 3人でやろうよ」って言って。それで大石(幸史)に入ってもらって。3人を持ち上げようとしましたけど、さすがに上がらなかったですね。そこで上がらなかった時に、「やべぇ、曙は上がんねぇよ」って思いました(笑)。鈴木さんは「まぁ、重心の問題だから」って言ってましたけど。まぁ、特別な事って大事だとは思いますけどね。対策っていうのは。ただ、これはアライとも話をしたんですけど、やたらとみんな相手の試合映像を見たがるじゃないですか。それが僕にはわからないんですよね。対戦相手の弱みを握ってリングに立つっていうのは、どうなんだろうなって。リング上で探せば良いじゃんって。だから対策っていう対策は練らないです。

会見の中で小椋選手が、「相撲時代にもこれほど体格差がある人とはやった事がない。身体は大丈夫か?」って心配してましたけど、その発言に関してはいかがですか?
佐藤光留:ちょっとね、風邪気味なんですよね(苦笑)。いや、僕も心配なんですけどね。「俺、大丈夫かな?」って。廣戸先生(廣戸聡一レフェリー)に「死ぬなよ」って言われた時に、「やべぇ、世界の廣戸が死ぬなよって言ってるから、死ぬ可能性もあるのかな」って思って(苦笑)。でも・・・しょうがないじゃないですか。この試合に勝って、「いや〜、良かった、良かった」って調子に乗ってて、バイクで事故って死んじゃうかも知れないじゃないですか。だから、死ぬタイミングを怖がってたらつまんない。何かに怯えながら生きるのは嫌じゃないですか。

わかりました。では、今回のvs小椋戦で、佐藤選手は何を一番大切にしたいと思っていますか?
佐藤光留:ん〜、玉海力のおっさんをビビらせたいですね。あいつの発言は本当にムカつく。比喩表現はナシで(笑)。「相撲取りを投げるのは不可能だ」って言ったりとか。とにかくちょっとカチンときてる。逆に小椋選手はあれだけ身体が大きくて強面の人ですが、紳士的な人ですよ。僕の中ではそういう印象ですね。だから、最近ホントに僕は、玉海力のおっさんって呼んでますからね。昔は玉ちゃんでしたけど。でもホント、玉海力選手には悪いですけど、チーム玉海力で一番強いのは小椋選手だと思ってますから。単純に。あの〜、今年中にチーム玉海力を何とかしたいですよね。前半は休みが多かったので。




では、ちょっと今回のvs小椋戦の話題からは離れますが、パンクラスという団体の中でも、パンクラスismというチームの中でも、異色、異彩、唯一無二の存在に佐藤選手はなりつつありますが、今後は自分をどのように表現していきたいと思っていますか?
佐藤光留:そうですね・・・こうしようと思ってやってる事がないからわかんないですね。まぁ、でも、記者会見にコスチュームを着て出て、あのシラ〜ッとした空気の中で、うちの社長が笑ってますからね(笑)。多分、僕、そういう場に普通の格好をして行ったら・・・脱ぎ始めるな(笑)。どうしてもそういう空気の中にいる事が楽しいんだと思いますよね。でも、最近は、僕が持ってる価値観っていうのは揺るがないので。もう、このまま。このまま。ん〜、あんまり思いつかないですね。僕、昔から変わってないじゃないですか。やっぱりこういう商売をしているから普通じゃダメだと思いますし。でも、こういう商売をしているから、普通の感覚を持ってなきゃいけないし。だって普通の感覚がわかんないと、何が奇抜かわかんなくなるじゃないですか。

わかりました。では、これで最後です。今回の佐藤選手の試合を楽しみにしている皆さん、そして佐藤選手を応援しているファンの皆さんへメッセージをお願いします。
佐藤光留:ん〜、正直言葉が出てこないくらいテンパってる(笑)。まぁ、僕は選手としてですけど、他のチームの選手、団体の選手と違うのは、やっぱりパンクラスという一つの団体を動かしていかないといけないっていう、ド真ん中にいる。それこそ本当にド真ん中にいるismというところの人間ですから。でも、リングに上がったら佐藤光留の空気なんだよな〜(笑)。やべぇ〜、ホント気が狂いそう(笑)。楽しみで、でも怖くて。面白そうだけど、でもビビってて。たまんないですね〜。脳から変な汁が出るね(笑)。まぁ、そんなテンパった僕を観て、何か持って帰ってくれたら良いですね。必ず何か持って帰らせるから。でも、アンダーグラウンドで(笑)。

佐藤光留選手database