●じゃ、その話聞きましょうか。日本人これだけいるんだっていう、パンクラスの財産ですよね。これ、事前に書いていただいたものですが、パンクラス各選手について船木さんがどう思っているか。意味深なひと言が並びましたが、一人一人について解説していただけますか。

【北岡悟選手に対する回答:猿】
船木:猿ですね(笑い)。全部「猿」っぽい感じしますね。普段の生活も。

●普段の生活が「猿」って、木の実ばっかり食ってるとか(笑い)。
船木:いえいえ(笑い)。動物的でいいなっていう。

●動物的でも、それが犬でも猫でもなく猿というのは…。
船木:たまたま見た目が猿に似てるから(笑い)。あんま、しゃべんないんですよ。ま、しゃべる人とはしゃべるんでしょうけど。勘がいいんですかね、あの体でよくやってるなと。小さい選手、何人かいるんですけど、その中でも非常にがんばってるなっていう。

●彼は中井さんのところ(編注:パレストラ=中井祐樹氏主宰)で柔術を学んでたんですよね。その技術は?
船木:ありますよ。これからが楽しみですね。

【佐藤光留選手に対する回答:芸】
船木:あいつ、練習生の頃から砲丸投げの芸とかいろんな芸持ってるんですよ(笑い)。

●そのまんまの「芸」ですか!
船木:何とかレンジャーに変身するポーズとか。何かあると「おい、佐藤!ちょっと来てアレやれ」って、それでみんな楽しい(笑い)。

●でも佐藤選手って、試合すごく面白いですね。それ、彼の持つサービス精神なのか、持って生まれたものなのか。そういえば佐藤選手、自分のホームページ持ってるの知ってますか?
船木:あ、そうですか。知らないですね。

●「横浜道場日記」なんて連載してるんですけど、それもひとつの芸だし。そういう自分の個性をリングで表現できる人なんで、それをもって「芸」と言ってるのかと。
船木:それにつながるんじゃないですかね。そうやって人を楽しませるキャラクターを持ってるってことですから。

【松永裕央選手に対する回答:二つの顔】
船木:道場で接しているときと、リング上とが、まったく別人に見えますね。

●ちょっと説明してもらえますか。ファンの方、リング上しか知らないわけですよね。リング上の松永選手は、ふてぶてしいというか、ヒールの雰囲気出してるわけですよね。普段はどうなんですか。
船木:マジメ。純粋。仕事もキチンとやるし。

●すごく礼儀正しいですよね。
船木:ええ。全くリング上と逆っていう風に考えていいです。

●作ってるんじゃないと?
船木:分かんないですね。もしかしたら、どっちもホントかと思います。リングに上がるときは、精神がジキルとハイドみたいに変わってるんじゃないかという気がします。

●すっごいプロ向きってことじゃないですか。
船木:そう。おそらく本人、全然違和感ないと思いますよ。つくってるんだったらバレると思うんですけど、これまで何試合か見てて、全くそういうの感じさせないんでね、本当にアイツが持ってる一面だと思います。

【須藤元気選手に対する回答:裏】
船木:これ、何の裏ですかね(笑い)。

●そんな、自分で書いたのに。
船木:ああ!これも松永と似てるところあるんですけど、元気ってすごくパフォーマンスとかやるんですけど、ホントのホントはすごく真面目な気がするんですね。で、未だに何をしたいのか、俺もよく分からないんですけど(笑い)、とにかく有名になりたい、目立ちたいんだと思うんですよ。そのひとつの手段がパフォーマンスだと思うんですが、相当裏では努力してるというのが分かりますよね。だから、天才的なものじゃない。作り上げるタイプというか。

●格闘技は三年くらいで区切りをつけて芸能界行きたいなんて雑誌で言ったら、ふつう格闘技ファンは怒るじゃないですか。でも何か許されるというのがある。
船木:生半可な気持ちで言ってるんじゃないのが伝わるからじゃないですか。だから俺、よく言いますよ。「あと三年だね」とか「二年だね」とか(笑い)。

●カウントダウンしてる。プレッシャーですね。
船木:自分で目標設定して、それに対する努力を続けてるんですよね。じゃないと結果は出てこない。時間がないわけですから。がんばんないと。

【菊田早苗選手に対する回答:変形】
船木:これ、何でしょうね(笑い)、変形…。

●パンクラスにはいなかったタイプの選手ということかな?
船木:あ、そういう意味かもしれないですね。外から入って、これだけパンクラスのことを考えている人はいないですよ。

●あ、これはおもしろい。菊田選手はパンクラスに入って来たけど、練習も外が中心だし、パンクラスに対する愛着とか帰属意識みたいなのが薄いんじゃないかという印象があるんですが。
船木:それは違いますよ。たしかにグラバカとかつくりますけど、あれもひとえにパンクラスの中をにぎやかにしたいっていう気持ちの表れなんですよね。とにかく「パンクラスにとってメリットのあることをしたい」って、そればっかり言ってますね。それで社長とか俺とかにいろんな案を出してくれる。「これはメリットになりますかね」って。自分だけじゃ嫌なんです。自分にもパンクラスにもメリットにならないとヤル気がしないんですって。

●もしかしたら菊田選手のことを誤解してたかもしれない。
船木:してますね。多分みんな(笑い)。

【謙吾選手に対する回答:大器】

●これは分かりやすいですね。大器。
船木:もう、見るからに。逆に言えば、そういうふうに見られてるから、俺とはまた形は違うけれど、勝ちとかすごい試合とかを求められますね。おそらくここ何戦かしているうちに、だんだん試合がプレッシャーになってくるでしょうね。負けられないんですよ。

●まだ、負けてもいいんじゃないかと思うんですけど。
船木:俺も本当はそう思いますけどね。

●地味に判定勝ちするより、派手にKOされたほうが「らしい」というか。
船木:でも負けたら負けたで言われますから(笑い)。そこなんですよね。

●たしかに。船木さんも、そういう立場の人だったから分かるんでしょうね。
船木:大器と言われて、大器になる可能性を持っている。決めつけちゃいけないんですけど、そういうふうに見えちゃうんですよ。それとの闘いになるんじゃないですかね、これからは。

●練習の仕方とかで相談持ちかけられたりはしますか?
船木:それ一切言わないですね。あんまり負担をかけてもいけないという気持ちがあるんじゃないすかね。

●もう船木さんも現役じゃないんだから、遠慮なく負担かければいいのに。
船木:みんな気ぃ使ってるんですよ(苦笑)。近藤の練習の管理って、いま俺がやってるんですけど、近藤に教えてるの、みんなチラッチラっと恨めしそうな目で見てますから。「なんで近藤だけなの」って(笑い)。近藤には直接言われましたからね「練習見てください」って。うれしいですね。

●なるほど。負担をかけるのを何とも思わない性格(笑い)。じゃ、近藤選手いきましょうか。

【近藤有己選手に対する回答:不動心】
船木:本当に不動心。日本全滅っていう状況になっても平常心を保てるんじゃないかってくらい(笑い)。またそれが、格闘技にすごく合ってるんですよ。性格が。最近思うのは、近藤みたいな奴こそが格闘技をやるべきだと思いますね。負けたら負けたで「悔しい」と、悪いところ洗いなおして次から負けないようにする。勝ったら勝ったで「よし」と思える単純な性格(笑い)。

●この間のカフェ戦(編注:UFCで対戦)。雑誌のインタビューで「あの大逆転はどこから生まれるのか」と聞かれて、「まず、しっかりマウントを取られることだ」と(笑い)。本当に反省してるんでしょうか(笑い)。
船木:反省はしてると思いますね。だから逆にそういう冗談にしちゃうんでしょうけど。だけど半分は分かってないんでしょうね、自分でも。ああやってマウント取られたのに、なんで勝てたのかって(笑い)。

●船木さんはどう見てますか。
船木:近藤っていつも最初、戦闘モードに入ってないんですよ。最初っから戦闘モードに入っていれば、もっと早くカタつけられたんですよ。明らかに1R目と3R目だと、表情もそうだし、体から出る気もそうだし。

●最初から行ってたらマウント取られなかったと?
船木:取られないでしょうね。気持ちの問題ですね。

●じゃあ、マウントを取られない技術、要するにポジショニングの技術は、近藤選手は「ある」と。
船木:ありますよ。あるけども、ボーっとしてるから取られちゃう(笑い)。それがなければ、まったく取られる心配ないです(キッパリ)。だから闘う前っていうのは、ボーっとしちゃいけないですね(笑い)。ただ、あいつの場合は、闘ってる最中にようやく体が反応してくるっていうか、ヤバくなって初めて本気になる。

●でも、コロシアム2000のときは早かったですよ(編注:サウロ・ヒベイロ戦)。
船木:あのときは、前の日に相手にナメられてるって感じがしたらしいですよ。こっちを見る感じが「ナメてる」って。それがちょっと腹立ってたらしいです。最初からそういうのがあれば、行っちゃうんですけど。

●いや、でも実際のところ初対決の相手をナメるなんてことあります?
船木:やっぱりよっぽど自信があれば、ナメちゃうでしょうね。

【石井大輔選手に対する回答:夢をつかみたい男】
船木:夢をつかみたいんだと思うんですよ。UFCを見て、そこに出たい、それでパンクラスに入った男ですから。方向性としては、すごく変わったところから入ってきた男なんですね。ただ格闘技の厳しさというのもだいぶ分かってきたと思うんですよ。もうちょいなんですよね。もうちょい何かが変われば。家に行くと、いろんな言葉を壁に貼ってるらしいんですよ。自分を励ます言葉。相当、夢をつかみたいんだなと思うんですね(笑い)。だけどそのために何をしなければならないかっていう、本当の単純な部分がまだ見つかってないから。

●それは何なんでしょう。
船木:これも技術じゃないですね。気持ちの部分だと思うんですけど…。今のままの生活をしてたら夢はつかめない。でもその夢をつかみたいという欲望は人一倍ある男だと思うんです。やっぱり自覚でしょうね。

●グローブ・ルールになってブレイクすると言われた一人じゃないですか。それが…
船木:まだ(ブレイク)してないじゃないですか。

●六秒KO勝利なんてのかあったんで、余計に思うんですけどね。
船木:そこなんですよね。「前よりも」っていう気持ち、もちろんあると思うんですけど、中途半端じゃいけないと思うんです。

【美濃輪育久選手に対する回答:爆弾】
船木:爆弾ですね、こいつは。何考えてるか分からないってことは、何も考えてないんですよ(笑い)。何も考えないで、バーンと突っ込むことが、こいつの本能を動かすことで。そういうふうな性格で、いい試合して勝ってるっていうのはいいんですけど、逆に負けたときっていうのは、ものすごい悲惨な負け方なんだろな、と思いますね。でもそういった自分のスタイルっていうのをようやくつかんできたんで、すごくいいことだと思います。ま、よくも悪くも爆弾的な闘い方するなって。

●美濃輪選手は、大道塾出たり、UFC出たり、外の闘いで名前を上げましたね。
船木:単純に外の闘いのほうがやりやすいんです。知ってる奴とやるとどうしても「情」の部分が入ってくるんで。まったく知らない奴とか、負けられない相手とか、そういう試合のほうがいいんですよね。多分美濃輪なんかは、人一倍そういうところがあると思うんですよ。

●うーん。ライトヘビー(トーナメント)の決勝、山宮選手とやりましたね。
船木:ああ、あれ、やりづらそうでしたね。

●パンクラス自体の興行を盛り上げるには、その気持ちを何とかしてもらいたいというのもありますけどね。
船木:そうですね。ま、でもそういう時代は終わったんじゃないですかね。オーソドックスな日本人対決とか、パンクラス内での闘いって。

●船木さん自身は、その「情」の部分ってありました?
船木:やっぱり嫌ですよ。旗揚げしてすぐに「来年はもう道場二つにしたい」って思いましたもん。

●でもね、見てて船木さんって、全然遠慮容赦のない試合を(笑い)。
船木:それはもう、断ち切ってやってたんですよね。

【窪田幸生選手に対する回答:ミーハー】

●ミーハーですか。
船木:あいつ、入門試験で受かって、もう決まってるのに、俺に握手求めてきたんです(笑い)。で、握手して「おー」って。それが印象ありますね。

●その話、前にも聞いたことある。よっぽど印象に残ってるんですね。まだどこかに、ファン意識が残ってるんじゃないかと?
船木:そこを何とかしないといけないと思います。ファンのままじゃ通用しない世界ですから。そのままだと、パンクラスにいるってだけで満足してしまうんですよね。そうなっちゃうと、そいつから下の選手にもよくないし。あの入門テストのときのままだとは思わないですけど。自分ももう見られる立場なんだよってことを、もっとしっかりと持ってもらいたいです。いいもの持ってるんですから。

●どういうところですか。
船木:グラウンドでなかなかキメにくい体してますね。体が柔らかくって小さいっていう。そういう格闘技に有利な体形って、他がマネしようとしてもできない。そういういいところがあるんですから。

【KEI山宮選手に対する回答:表紙】
船木:週プロの表紙にピンでなりたくてしょうがないらしいんですよ(笑い)。

●船木さんはもう何度も表紙になってますよね。一番最初になったのはいつ頃?まだ新日時代?
船木:「UWFに行く」っていう、海外遠征の頃の写真。

●最初に表紙になったとき、どう思いました?
船木:もうその頃は、自分は意外と冷静でしたね。

●山宮選手は未だにそれを持ってるんだ。
船木:鈴木と闘ってる写真で初めて載ったらしいんですけど、「鈴木みのる」としか載ってないんですよね。「鈴木対山宮」じゃなかったんですよ。それで相当怒ってました(笑い)。「じゃあ週プロの表紙になるには何をしなければいけないか」ですね?

●そうそう。
船木:パンクラスを辞めることだと思います(笑)。

●あら、すごいことを…。
船木:それくらいして、別のリングでハイアン(グレイシー)とやるとか。それくらいするのもいいかもしれない(笑い)。

●スキャンダルを起こさなきゃいけない。
船木:ええ。そういった部分も、雑誌的には大事なんですよ。普通に闘って、ただ強いとかじゃなかなか。

●船木さんは、それで山宮さんが辞めてもいいと思う?
船木:「どーしても週プロの表紙になりたい」ってんだったら(笑い)止められないですよ。人の人生ですから。「そうか、そんなになりたいのか」って(笑い)。

【渡辺大介選手に対する回答:坂道】
船木:上り坂と下り坂の、ものすごく激しい男ですね。練習生のときも怪我とかで全然デビューの見込み無くて、すごい坂道転がり落ちてたんですけども、デビューできるって決まったとたんにパーンと上がってきて。あいつのデビュー戦はなかなかいい試合だったんですよ。

●山田選手との試合ですね。
船木:次の試合からまた落ちてきて、そうかと思ったら今度はネオブラッドで上がってきて、このまま優勝か?と思ったらまたストーンと落ちて。上り下りがすごい激しい男だなと。

●この坂道を上りだけにするには?
船木:上り坂は力いるんですよ、歩くのに、下り坂ってのは力入れなくても落ちてくんですよ。

●じゃあ、ずーっと力入れてかなきゃならんと。
船木:そうです。

【伊藤崇文選手に対する回答:土下座】

●伊藤選手の土下座(編注:試合後の船木選手を駐車場で待ち受けて、土下座で入門志願)。これ付いて離れないですね。
船木:ええ。ずーっとそのイメージ。あいつも多分そのイメージをもってんじゃないですかねえ。入門って、その選手達にとってすごく思い出がある場面なんですよ。なかなかああいう昭和の初期の頃の入門の仕方みたいなことは、最近無いですから。めずらしいですよね。

●嫌な思い出としてあるって前に聞いたことあるんですよ。でも第三者的に見たら、とってもいい話だと思いません?
船木:ですね。だけど、いざそういう風にやられてみると恥ずかしいですよ(笑い)。

●伊藤選手、ずいぶん長い間欠場が続いてますね。どうなんですか?
船木:練習はやってるみたいです。体と相談しながら。

●船木さん、横浜道場の情報なんかはどうやって?
船木:鈴木を通して全部。

●行ってはいないんですか?
船木:行かないですね。鈴木もあんまり俺に行かれるの好きじゃないと思うんで。「自分の家なのに」って(笑い)。

●船木さんはどうなんですか?東京道場に鈴木選手が来て練習見てるってのは?
船木:見てるのは別にいいんですけど、やっぱりやり方違いますから。まったく個性の違う男なんで。(鈴木選手にしてみたら)「これは違うだろう」って思うことをやってるように見えるでしょうね。でも、それでいいと思いますよ。

【渋谷修身選手に対する回答:鉄の体】
船木:鉄の体。これは渋谷の戦績表出してもらうと分かるんですけど、あいつもう俺の試合数超してるんですよ。あれって、ひとえにあいつの体の強さだと思うんですよね。俺よりも一年何ヵ月ぐらい後から試合してるのに、もうすでに超してますから。すごいと思いますね。おそらく彼の場合は、これからもそういうスタンスでやっていけると思いますね。

●あ、でも今のペースがいいって言ってましたよ。今年くらいの間隔でやると、試合に向けてじゃなくて、自分の練習ができるって。
船木:それを覚えたってことは、それでいいんです。試合やりたくてやりたくてたまらない近藤みたいなのもいるんですよ(笑い)。渋谷みたいな考え方になってくれればもっといいんですけどね。間あくほどそれだけパワーアップした練習ができるってことは。

●やっぱり対戦相手を想定した練習よりもベースアップをする練習が。
船木:大事ですね。それは時間がないとできないことなんで。一週間二週間じゃ無理なことなんですよ。一ヵ月二ヵ月かければ人間変わりますけど。まあ、人によります。

【國奥麒樹真選手に対する回答:求】
船木:いろんなことに対して「求め」てると思うんですよ。闘いを求めたりとか、生き方とか、あと人を求めてるってのもありますね。本当の自分に対してのつきあい…多分いろんな人とつきあってるんじゃないですかね。ただ、多分、人選ぶと思いますね。居心地のいい人と悪い人っていうのを、ちゃんと。15でこの世界に入って、いろんな人間見てて、いろんな人との出会いと別れを見てますから。

●じゃ、仲いい人とはいい。
船木:ものすごく仲いいと思います。俺自身、國奥に助けられたこと何回もありますからね。

●例えば?
船木:やっぱり、横浜で三十分ヤジ浸け(編注:ガイ・メッツァーとのタイトルマッチ)ってのがあったじゃないですか。あの後も國奥のひと言(編注:「五ヵ月間のキング、お疲れさまでした」)で、もう涙出てきましたからね。そういった意味で、あいつは愛情とか人間の情をものすごく大事にする人間だと思うし。それが故に、今の世の中ってそういうところ軽くなってるじゃないですか、情が。(國奥選手は古いタイプの人間だから)それにちょっと付いていけない部分があるみたいですけど、でも体が若い分、バランスを求めてると思うんですね。…いい人生を送ってもらいたいなあと思いますね。俺はずっと見届けるつもりだし。自分を照しあわせてるところもありますね。同じように15でこの世界に入ってきて、でも全く自分とは違う状況だってのも分かりますから。弟みたいに感じてるところもありますね。

【稲垣克臣選手に対する回答:スタミナ】
船木:スタミナ。旗揚げの頃、全員のスパーリングパートナーを務めてたんですよ。本当に大変だったと思いますね。

●なんで、そんな目にあっちゃってたんですか。選手いないから?
船木:そう。すごかったですよ。そういう毎日を送ってましたからね。

●稲垣選手も欠場が続いてますが。
船木:肘ですね。それもやっぱり、ずっとみんなのスパーリングパートナーを付き合ってたのがあるかもしれないですね。付き合えてしまう。スタミナがあるっていうことは、忍耐力がすごいと思うんですよね。精神力にもスタミナがないと、体を動かし続けることできないですから。そういう意味では、ものすごい忍耐強い男だなと思いますね。

●高橋選手だったかな?稲垣選手が、ひとつの試合に向けて学んだことが、次の試合につながっていないというようなことを。それは船木さんも感じますか?
船木:それもやっぱりありますね。もしかしたら、自分で(こうありたいという)一貫した気持ちがずーっとあって、それに対して色々な人がアドバイスして、その時は聞くんですけど根本的には変えられない。もしかしたらものすごい頑固なのかもしれないですね。

【山田学選手に対する回答:男はつらいよ】
船木:なんか、寅さんの格闘技版を見ているような、そんな感じしますよ。寅さんは、自分の人生を歩んで行くんですけども、好きな女の人となかなかうまくいかなくて、それでまた旅をするっていう。

●どういう比喩なんですか(笑い)。
船木:だけどちゃんと生きてて、明るく振る舞ってバナナ売ったりとかするじゃないですか。

●あー、はいはい。
船木:ああいうところが、なんかこう。

●山田選手も、これまで怪我多かったですもんね。
船木:それで、本当の華やかな場面には立ててないんですよね。だけども明るく山田学を生きてるっつーことが、「男はつらいよ」ですね。

●初めて会った時のこと覚えてます?
船木:すごく、気力にみなぎってる人だなって思いましたね。それで試合やって、やっぱりその気力でバーっとこう上がってきましたよね。それでキング・オブ・パンクラス・トーナメントの決勝まで行って。それ以降ちょっと大っきいのがあんまり無くて。

●でも毎回試合は、おもしろいんですよ。
船木:おもしろいですよね。

●判定の多い少ないで決めるのもなんなんですけど、山田選手はやっぱり一本で決着つきますよね。勝っても、負けても。船木さんもそうなんですけど。そういう試合になってしまう二人の共通点ってのは何ですか?
船木:ハッキリしたいんじゃないですか?

●僕が思うのは、体にエンターティナーとしての血が染み付いてる。
船木:ああ、でもそれも不思議ですよね。俺は新日経験してるから何となく分かるんですけど、山さんってシューティングから来てるじゃないですか。不思議ですねえ。

【高橋義生選手に対する回答:牙】
船木:牙っていうのは、最初に高橋と会った時からありましたね。ものすごい目つきで、みんなを敵として見てるっていうか。その感覚が今でも多少なりとも残ってるんだと思うんですよ。で、とにかく上に行きたいという、そういうのがありますね。

●未だにありますか?なんか高橋選手、最近ちょっと引いてるように見えるんですけどねえ。
船木:引いてるふりしてるだけだと思いますね。自分の光り方ってのをおそらく見つけたんだと思います。だから、お金が無くなったらまた始まる(笑い)。

●ところで、船木さんがパンクラスの選手にトレーナーを頼んだのは、高橋選手だけ?
船木:そうです。良かったですね。すごいやさしくて(笑い)。俺はすごい楽でした。本当に練習、何やったらいいんだろうって何にも考えないで、ただ、その日にその場所に行ってって感じでした。

●今、東京道場で練習のリーダーシップをとってるのは高橋選手?
船木:ええと、今は高橋がいる時は高橋ですね。

●高橋選手が全体をどんどん仕切っていくということは考えられないですか?
船木:本当はそうなったらいいんですけどね。ただ、高橋も、毎回毎回一緒に練習できないって言うんですよ。だから今は週に二日ですね。あとは出稽古です。そういうのが週四回。あとウエイト・トレーニングと、ランニングと。そうやって個人での練習が多くなりましたね。

【冨宅飛駈選手に対する回答:人情】
船木:人情を…肉で包んだような男ですね(笑い)。それこそ酒を飲むと本音がポロポロ出てきて。「酒が言わせてる」とか言いますけど、そういうときの言葉ってウソはないと思いますよ。

●やっぱ、シラフじゃ言えないってことはありますもんね。そういうときって、どんな話を?言えないですか。
船木:なんですかね、すごいこと言いますよね。

●以前、引退したいみたいな話も…。
船木:ありましたね。冨宅と稲垣と似たようなところあるんですよね。いや、稲垣が引退したいって言ったわけじゃなくて、忍耐強さとか。そこは二人とも似たようなところあります。ああいう状況(怪我での欠場)で何回も気持ちが追い込まれて、それでも復帰を待つっていうのも冨宅なんでしょうね。待てる忍耐強さ。

●船木さんだったら辞めてる?
船木:辞めますね。何回怪我したら気が済むんだろうって。もうダメだっていう証拠だって思っちゃいますよね。それはいい悪いじゃなくて、俺だったらそう感じるってことですよ。

【鈴木みのる選手に対する回答:人間】
船木:ホント「人間だなあ」と思いますよ。そのまんまじゃないですか。よく鈴木のことを「人間臭い人間臭い」って言う人いっぱいいるんで、何が人間臭いんだろうってずっと見てた時期あったんですよ(笑い)。「ああ~、なるほど」(笑い)と思いましたね。昔、はたちの時に、二人で「座右の銘」を書いたことあったんですよ。そのときに、俺は「正義は勝つ」って書いたんですよ(笑い)。で、鈴木は「人生自分勝手」って書いたんです(笑い)。

●たしかそれ、今も書いてますよね。
船木:人間だなあ、と思いますよね(笑い)。

●しかし「正義は勝つ」っていうのもねえ(笑い)。
船木:人間じゃないですよね(笑い)。「なんだお前スーパーヒーローかよ」って(笑い)。仮面ライダーじゃないんだから。

●その頃船木さんは人間じゃなかったんだ。
船木:最近は変わりましたよ。「人生はつらい」(笑い)。どうひっくり返ってもつらいです。たまたまいいことがあって、マヒして楽しいってことはあるんですけど、ふと気がつくと、またつらいんですよね。だけど、またいい気分になりたくてがんばるんですけど。

●そう「がんばる」といえばね、鈴木選手、色紙を頼まれて「お前ががんばれ」って書いたことがあるらしいんです(笑い)。やっぱりファンの方って、「がんばってください」って言いますよね。そうやって尻を叩かれるのに疲れたのかな、と思って。船木さんはどうですか、「がんばってください」に。
船木:俺も「がんばってください」って言われて、「そうですね、あなたもがんばってください」(笑い)って言ってた時期がありましたね。

●やっぱりイヤでしたか。「そんなに追い込むな」と。
船木:うーん、いや「がんばってるよぉ」っていう(笑い)。そういう気持ちだったんだと思いますね。

●でもファンが掛ける言葉って、やっぱり「がんばってください」しかない。
船木:ですね。「勝ってください」とか。でもやっぱりありがたいですよ。

●じゃ、掛けられたい言葉ってありますか。
船木:何ですかね…やっぱ言葉じゃないですね。声援とか拍手とか。個人じゃないと思いますね。全体で来るエネルギー。

●うん、僕が忘れられないのが、船木・鈴木戦。あの時の会場のエネルギーすごかったですね。
船木:あれだと思いますね。何だろうと思いましたね。異様な…。

●あのムード、他で感じたことありますか。
船木:ないですね…まあ、今年はいろんなことがありました(笑い)。

●へ?突然、何言ってるんですか。勝手にシメようとしてますね(笑い)。
船木:大変な年でした。一年間。あと一ヵ月半、早く終わってほしいんですけどね。早く来年になって…。

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