12月21日、ディファ有明。
 この日は近藤有己の鮮やかな復帰記念日だった。5ヶ月ぶり。記念日といったのは、ただ勝つのではなく、その安定した内容が来年のパンクラスに期待を抱かせるほど素晴らしいものであったからだ。
相手はアマ・キングダム選手権1位の栗原強で、プロとして実績がないため、言ってしまえば「勝って当然」だった。
しかし、そんな相手にも近藤はポカをしてしまうことがある。これまで、そのポカさえなければパンクラスはきわめて順風満帆だったはずで、その意味ではハラハラして試合を見つめていた近藤ファンもいたはずだった。
近藤有己という人間は面白い。
というのはテクニックとか、細かい技に対して、きわめて鈍感に性格が出来ているからだ。近藤が目指しているのは、そんなテクニックの細かさではなく、何と言うか…技を超越した達人。呼吸で相手を感じ、相手の攻撃もスーッと自然にかわしているというテレビに出てくるような達人になりたいのだ。
この日、マウントポジションを取った時、誰もが「近藤が勝った」と思った。それほどマウントが安定し、パンチも的確。相手はどうあがこうとも、感じるままにパンチを出せば当たってしまう。そんな状態だったからだ。感情の起伏もないのだろう。表情もない。
もともと、表情がないのではなくて、心を安定させると自然とそうなっていく。
そうなるために近藤は実に2年という月日をヨーガで鍛錬してきた。
どんな状況になっても冷静に獲物を見る。また頭で考えて動くのではなく、自然に動けるようにヨーガで五感というものを鍛えてきた。それが栗原戦で充分に出ていたのだ。
そんな近藤に菊田早苗が対戦要求をしたのは11月30日の横浜文化体育館だった。
菊田が言う。
「もう、ずい分前、早く近藤選手と闘って、パンクラス内の闘いから外に向かおうと思っていた。そのために近藤選手に勝たなければ、と思っていたんですが、一年以上前に美濃輪選手と試合をした。それは近藤選手とやる前に、美濃輪選手に勢いがあって、そっちを倒していかなければならなかったからです。本当は近藤選手を倒しに行きたかった。なぜなら船木さんが引退したあと、近藤選手が次のパンクラスを背負う男と言われたから。だったら近藤選手を倒すしかないでしょ」
 菊田の話からすると、2年越しの闘いとなる。菊田にとって、いまの近藤をどのように思っているのだろうか。
「作戦というものはないですよ。自分の中ではやりやすい。作戦を立てるとしても立てやすいタイプ。ある時期(VS百瀬戦、2002年5月)、近藤選手は、もう駄目なんじゃないだろうかと思った。でも、郷野戦でもの凄く強い近藤有己がいた。郷野戦、あれは良かったですね。近藤選手のポイントというか、こうしたら勝つ道につながるという心境が見えました。こうすれば勝つんだという信念があって闘っていることがわかったんです。近藤選手にはそういうところがあるんですよ。だから僕は、弱い近藤選手、強い近藤選手の両方を見たわけです。これで、もう見るところはないなと。作戦を立てるとすれば、非常に立てやすくなったと自分では勝手に思っているわけですけどね。美濃輪戦と比べると、近藤選手のほうが作戦を立てやすい」


 菊田と近藤が闘うのは来年になる。
 テクニックの菊田早苗。
 泰然自若とした近藤有己。
 いったい、どんな試合になるのだろう。
 今年のパンクラスは経営的には良かったかもしれないが、プロという目でみると、もの足りなさを感じる興行が多かった。
 11・30横浜大会の鈴木みのるvs獣神サンダー・ライガー戦が心を躍らせたが、そこで思ったのは、やっぱり人を興奮させるのは、闘うことで何かを取り戻したり、何かを目指すといったテーマやビジョンを持った熱い人間だけなんだなということ。
 ライガーは闘うことで新日本プロレスにあった、かつての闘魂を甦らせたいと思った。また鈴木はライガーと闘うことで、テクニックではなく、人生をかけたぶつかり合いこそが、かつてのパンクラスであり、その原点に戻したいという激しい感情があった。
 闘うことにビジョンがあるからこそ、闘いというものは人々の心を躍らせる。
 菊田は近藤に勝つことによって、グラバカがパンクラスを制覇し、新しくグラバカ時代を作って行きたいと考えている。そこには外に出てグラバカ最強をアピールしたいというものがある。近藤は言葉がヘタだけに、マイクアピールはできないが、誰にも負けない達人になることによって風変わりなヒーローを目指している。
 グラバカの郷野もここへきて「鈴木VSライガー戦がメインはおかしい。強いヤツがメインに出なきゃ駄目だ」とパンクラス批判をしながら自己主張しはじめている。
 来年のパンクラスは、小じんまりから大きく変貌しそうで楽しみだ。