メインイベント フェザー級戦 5分3ラウンド
×前田吉朗
(パンクラス稲垣組)
vs DJ.taiki
(K.I.B.A.)
2R 0:35、TKO(レフェリーストップ)/パンチ
■ 前田吉朗(63.3kg) セコンド:稲垣克臣
■ DJ.taiki(63.6kg)
レフェリー:廣戸聡一

また大物食いをしたtaiki選手でしたが、この試合には色々な意味があった様な気がします。稲垣組の根幹にあるものを、ここまで体現したのは前田選手の活躍ですが、そろそろなれが出て来る時期で、懸念もしていました。
1ラウンド、前田選手が一方的にコントロールをして、今迄通りの仕方で、きちんと打って離れて打って近づく展開で、威力のあるパウンドも見せてくれた試合経過でした。その時点ではtaiki選手は良く耐えたなという印象で、あれだけ執拗に、一気呵成に攻撃をされると、何も出来ない自分がそこにいるので、心が折れてしまう事があります。前田選手は相手の心を折る様に追い討ちをかける強さがありますが、それを平然とクリアして活路を見出し、最後まで試合を投げない強い姿勢がtaiki選手にはありました。1ラウンド終了間際で何気なく頭から真後ろに下がった前田選手ですが、通常ならば足で下がり、真っ直ぐには下がらず、しかもあの距離からでは必ず前に詰めて行きます。taiki選手はそこを見透かした様に、見事なタイミングでフックを打ち込み前田選手をぐらつかせました。taiki選手の強さの秘密はチャンスだと思ったら、躊躇せず前に出て来るところで、どんどん攻め込みます。これに因って前田選手は相当な危機感があったと思います。相手から目線を下げ、頭を下げ、一回亀の状態になり、そこから仕切り直さなければならない状況でした。2ラウンド目、前田選手は回復しないまま、同じ展開が35秒までに2回あり、その2回目には足が止まったところで、taiki選手の能力ならもう一発ここで平然と打ち込むだろうという距離感で、これ以上続けても意味が無いと思い試合を止めました。完全にtaiki選手の技術勝ちでした。誰がどの様に言おうと、私は止めたので、これはtaiki選手の勝利です。パンクラスリングで無敗の選手にtaiki選手は黒星を付けたので、それだけで十分自信を持ってくれて良いと思います。疑惑の判定では無く、ちゃんと勝ったのですから。

taiki選手は必死に試合をしている分だけ隙がありません。逆に前田選手の強さというのも同様でしたが、そこに少し隙間が出来た瞬間がありましたが、これが「慣れ」、勝ち慣れしてしまったのだと思います。そして試合し続けていく間に、相手の技量というものを見透かして行く、感じ取る能力が発達し、それ故にお互いの技術性を見極めた時に、両者まんじりとも動けない、睨みあっただけで1ラウンドが終わる試合があったりするというのも、それは消極的なのではなく、積極的に行こうとすればするほど、相手の技術力を見極めてしまって、両者動けずということもありますが、それが出てきてしまった為に、一瞬の隙が出てしまったのだと思います。しかし一瞬の隙を突き、カードを引き込んだtaiki選手の積極性が快く映りました。
taiki選手はここからが問題で、ここからまた必死に出来るかどうかで、そしてもっと問題は前田選手で、ここでこの試合がどうのこうの言う様な見苦しい事をするのか、佐藤選手や北岡選手が今どんな思いで自分達にリニューアルを行って進化してきているかを見たとしたら、言葉で試合をするのか、黙って行動で勝負をして、もう一度必死な前田吉朗を見せるのか、ここは男としての見所です。ファンの皆さんは前田選手がどちらを選ぶかを見てあげていただきたいです。一流の選手を育てる為には、ファンの皆さんが鬼の様に冷たくなれるか、褒め称えて逃がしてしまうか、ここが選手が育つかどうかの大きなターニングポイントです。前田選手のみならず、ファンの皆さんが選手を育てるという事を念頭において、厳しい視線で前田選手を次の試合まで見守っていただきたいと思います。
逆に今回勝った選手というのは、厳しいリニューアルをかけて来ている選手で、今大会多く参加してくれました。大阪の大会は多々そういう試合です。浪花気質みたいな、生々しい部分が見て取れ、そして人間模様を見せてくれます。次回の梅田も楽しみにしています。そんな今回の梅田大会でした。

追記
この冬から春のスポーツイベントで、オリンピック、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で私が感じている事に、一つ結果が出た様な気がしました。パンクラスの若い選手には常々言っている事なんですが、その部分が少し見て取れたので、お話したいと思います。
この選手がどうのという具体的な事ではなく、全般的に私の大嫌いな風潮がオリンピックの日本選手の中に見て取れました。これは本編でも言いましたが、言葉で逃げるという事です。ストレス、プレッシャーという言葉をやたらと使う人は大嫌いです。ストレスのない世の中はありません。重力というものがある以上、これは全てストレスです。それをどういう風に自分の中に入れて、それにどうやって打ち克って行くかという事が、生まれてきた大前提です。生まれたての赤ちゃんは、重力に耐えられないから、二本足で立てません。初めは寝ただけで、首もすわりません。それが徐々になれ、四つん這いになり、重力というストレスに打ち克とうとします。四つん這いからようやく二本足でふらふら立ち、それが100mを10秒切るような速度で走れる様になります。それを進化と呼びます。ですから、そういうストレスの無い所に行こうとする事自体、私は大嫌いです。スポーツをしているという事は、そのストレスのある場所に最初から突っ込んでいく事、身を置く事で、大会に出て自分のランキングが付くという事は、他人が選ばれたいと思っているものを奪い取り、自分がそのグループで代表になるという事で、他人を巻き込んでいる事です。そうやって日本代表になり、国旗を背負って立つという意味は、選ばれし人で、人の夢を奪い、自分が代表になった時点で、今度は世界の人達の夢を奪い頂点に立つというのがオリンピックの基本、世界大会の基本です。だからこそ金銀胴とメダルがあるんです。

私も冬季オリンピックの現場に身を置いた事がありますが、それは凄いプレッシャーだとは思いますし、特別な空間です。メディアから色々な事を書かれ、本当に心中穏やかでは無いと思いますが、それは唐突に始まる事ではなく、選ばれるプロセスの中で、そういう事は明らかに分かっている事です。それが嫌ならば、代表にならなければ良いだけです。そういう事を経て、代表になり、自分個人ではなくなり、それが責任であり、そういう位置づけになり、世界と闘う寸前で、楽しみたいと思いますという様な、国民代表の責任を放棄して一個人の感想で言葉を濁すという事は、私は実に不愉快だし、そんな選手は初めから代表にしなければ良いと思います。それならば多少世界レベルに劣っていても、最後まで必死に試合をしてくれる日本人をオリンピックで見たいと思うし、負けてへらへらする様な日本代表が世界の映像に流れる事自体屈辱です。それとは逆の、良い意味で表現をしてくれたのがWBCのイチロー選手の、屈辱発言です。日本代表が韓国に負け、翌日の新聞には99%決勝進出絶望と書かれました。しかしその中で、イチロー選手いわく、人生最大の不味い酒を飲み、前後不覚になりホテルに戻り、気が付いたらアメリカがメキシコに負け、最後のチャンスが転がり込んでくるわけです。結果的にはメキシコが疑惑の判定があった上で競り勝ち、それが故に日本が決勝リーグに進むわけですが、間接的には二度韓国戦に負けても、必死に食らいついて、何億円と貰っているような日本の一流選手が国旗の為、野球というものがベースボールの上に位置しているんだという事を示唆し、アジアでNO.1になったのだから、世界で一位になるんだという気持ちの中で、何とか失点を防ぎ、何とか一点でも多く取ろうという予選からの試合の仕方が全て集約して、薄氷を踏む思いで、最後決勝リーグに駒を進めました。

落胆、ふてくされ、先を読みすぎがっくりする、そんな事を考える暇も無く毎試合一流選手が試合をしてきたからこそ、そういう0.01%の勝機を掴みました。第1回の世界一位の称号を手に入れる、これはたいへん価値のある事です。その必死さがそのまま視聴率に反映し、それにより勇気を与えられ、その姿に触発され、じっとしていられない自分がいる、心を震えさせてもらえる、それはオリンピックがそうあるべきだと思いましたが、今回は日本人のスポーツに対する感覚というものは、オリンピックで盛り下げられてしまったけれども、どうあるべきかはWBCで盛り上げられたと思います。ですからそういう意味では、イチロー選手がどういう行動、発言をしたのか、それを見守った王監督がどんな態度をとっていたのか、そして同じチームジャパンの選手達が、どんな顔つきをして試合に臨んでいたか。誰も楽しんではいなし、全選手泣きそうな顔して試合をしてまいした。だいの大人が顔色を変えて、必死になったからこそ、あのシャンペンファイトは楽しそうに見えたし、あんなバカ見たくはしゃいでいるところを誰も馬鹿馬鹿しいとか、子供ぽいと思った人はいません。皆、くぐってきたものを知っているからです。

人の賞賛に一喜一憂しないこと、そして自分のすべき事を淡々とし、そして先を読んでの自分の気分の揺れでする事を変えない事、もうそれにつきます。今回の大阪大会で楽しみにしていた選手が、その通りに満たしてくれました。スポーツは言葉でするものではなく、気持ちを前面に出し、不恰好、不器用そんな事にかまう必要はなく、必死な姿を見せて欲しいです。隠れて必死になっても、それは必ず伝わります。必死の男達を見られるリングは少なくなってきますから、どんくさいけれども、選手達をそういう風に見てあげて欲しいと思います。