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自分しか出せない強さが生み出す価値 パンクラス酒井社長×鈴木みのる第2弾

Photo:田栗かおる

海外標準を打ち出し、リングから10角形ゲージへの移行、UFCとファイトパス契約、そして4月19日からテレビ東京で12年ぶりの地上波復活(4月19日『パンクラス これが2015年メジャー格闘技だ』/26時35分~)など次々と改革を行うパンクラスについて、酒井正和社長と同団体創設者の1人である鈴木みのるが語り合う対談第2弾をお届けする。

前回は2人の出会い、みのるがパンクラスを創設したときの苦労話、酒井社長がパンクラス社長を請け負った想いなどを話してもらった。今回はスタイリッシュなロゴがなぜ生まれたか、みのると酒井社長が考えるプロとは何か。そして、2人のトークが盛り上がる中、最後にみのるが酒井社長に、そしてパンクラスへ送った熱きメッセージとは!?
(取材日は3月15日・ディファ有明/インタビュアーはパンクラス創立時から取材をしているスポーツライター布施鋼治)

血を混ぜると黒になることを表現

本当に面白いですよね。ディファ有明でパンクラスをやって、隣の有明コロシアムでパンクラス出身の鈴木さんがノアのメインイベントでタイトルマッチをやる(取材後、みのるは隣のノア有明コロシアム大会に参戦し、丸藤正道の持つGHCヘビー級王座に挑戦)。こういうシチュエーションが生まれるとは世の中の人はあまり思っていなかったですよ。
みのる ぶっちゃけ僕はキャリア27年ですからね。パンクラス作ったとき、僕はたかだかプロレスのキャリアも5年しかなかったですからね。25歳で。今から考えたらあのエネルギーって何だったんだろうと本当思いますね。
でも尖ってましたよね。
みのる すべての人をぶっ飛ばせると思ってました。もちろん今も思っているんですけど(笑)。当時は何も持っていない状態なのに、強い意志はあのときの全員にありましたね。まだデビューしていなかった稲垣(克臣)と国奥(麒樹真)はついてくるだけでしたけど、船木(誠勝)、オレ、冨宅(飛駈)、高橋(義生)、柳澤(龍志)と最初に選手だった5人は本当に強い意志でやりましたね。
途中、全員離れ離れになって、僕と船木はプロレス界で再会して血だらけになって殴り合って。なんか何で憎しみあってたのか分からなくなっちゃって……。今日も会場に来るんですよね(地上波で行われるパンクラスの番組のナビゲーターを務める船木がこの日のパンクラス興行に番宣のために来場)。いいことですよ、はい(しみじみと)。
そういう流れをみて酒井さんはどうですか?
酒井 あらためて身が引き締まりますよね。やっぱりパンクラスを作った創業者なんですよね、鈴木さんは。
みのる ちなみにロゴの意味を知っていますか? すべての形に意味があるって知ってます?
僕らとコピーライターとイラストレーターとずっと話をして、何度もダメ出しして。いろいろ出てきたうちのひとつにこれがあったんですよ。作った人は新会社のロゴでバツはないだろうと思って一度ボツにしたらしいんです。でも、「絶対ボツだと思いますけど、実は一番最初に浮かんだのがこれなんです」といって出してきたんです。
ようは赤は血液なんですよ。交わるって意味で、すべての血を混ぜると黒になるっていう思いがすべてこの中に入っていて。それで『ハイブリッド』というコピーをつけてもらったんですよ。
旗揚げのときに21世紀のプロレスということを言ったじゃないですか? 21年後、21世紀のプロレスとしてどうですか?
みのる うーん、プロレスはプロレスだよね。プロレスはプロレスで、完全に違うものというのも分かったけど……。だけど、僕らが作ったというのは町道場で育って作った団体ではないということがひとつですね。僕らはプロとしてリングに上がる、商品として僕らは生まれ育っているので。その人間たちが作ったから明らかな違いがよそとあるはずなんですね。
その自負はありますか?
みのる ありますよ。

お金を払う価値のある選手とは!?

鈴木さんの意思を引き継いでいると僕から見て思う伊藤(崇文)選手とか砂辺(光久)選手とかは鈴木さんから見てどう思っていますか?
みのる どう? どうもこうも頑張っていますよ(笑)。僕は「パイルドライバー」というグッズのショップをやっているんですけど、ぶっちゃけ2人とも僕の契約選手なので(笑)。選手は弟分なんですね、全員。それで彼らをちょっとでもサポートできたらと思って、現在は近藤(有己空)伊藤川村と新しく契約した砂辺の4人ですね。微々たるもんですけどサポートさせてもらっています。
その4名は酒井さんから見てどうですか?
酒井 ハイブリッドじゃないですか。特に今、砂辺選手は本当に注目しています。彼は面白いと思うんですよ。彼はいろいろなことが良く分かっています。先輩たちを見ています、研究しています。今後どんどんパンクラスが進化していくうえで、彼の存在は大きいと思いますよ。彼が今後のパンクラスの指針のひとつになるのは間違いないですね。
みのる アメリカの選手ってこういうインタビューとか、公開計量とか特別違う感じがしませんか? あれはショービジネスが発展しているアメリカだから当たり前のように自分がそうするべきだと思ってやっているんですよ。でも日本はショービジネスがまだ低いので、その中で力だけでのし上がっていく選手はやっぱり自分が表現しきれていないのがすごいあるんですよ。
言いたいことが言葉で表現できないということですか?
みのる 戦うことがもちろん一番大事なことなんですけど、戦うことしかできないんですよ。
プロとしてのプラスアルファがほしいですね。
みのる そうです。もし、僕がお金を払うお客さんだったとすると、すごく強いやつ、すごくかっこいいやつ、すごく好きなやつ、弱いけど何かすごく応援したくなるやつ、何か飛び抜けている人間にしかお金を払いたくないんですよ。それで、僕は満足するために5千円とか、1万円とか払うのであって。失礼な言い方ですけど、ここに引っかからない、その他大勢という選手が非常に多いです。強くてお金をもらうんだったら一番強くならなかったらお金にならないです。みんなと同じ格好良さだったら1円にもならないと思っています。それを自分自身もずっと追及しているので。
同じ格好良さでいったら僕はジャニーズのタレントに負けるかもしれないけど、絶対ジャニーズのタレントよりも俺のほうが格好いい瞬間を自分で出せると思ってるんです。強いという部分でも、日本の総合格闘技のチャンピオンや日本のオリンピック種目のチャンピオンも含めて世界の人の中で、自分しか出せない強さが必ずあると思っています。それを出せる瞬間があるので、そこにみんなはオレにお金を払ってくれていると思っています。その気持ちというのは、ismの選手なんかには僕の知っている範囲で「お前は金にならないよ」「お前は金になるからそこを伸ばしなさい」って言っていて。
選手の育て方もあるじゃないですか。昔、パンクラスが広尾と横浜に道場が2つに分かれたときに真っ先に目をつけたのはそこなんですよ。マイナス要因を埋めない、長所だけを伸ばせばいいよって。寝たら棒切れでも、寝なければいいんだからって。一発で倒せる打撃を身に付ければいいんだからって。そうじゃないと面白くないですよ。デコボコのほうが面白いんですよ。じゃなかったお金払わないです。

パンクラスを世界で配信していく

酒井さんは今の意見を聞いてどうですか?
酒井 まったく一緒ですね。海外を見ていれば分かるんですけど、みんな個人事業主なんですよ。個人事業主だから自分で商売をやって売り上げを上げないといけないわけですよ。そのためにPRもやるし、自分を磨いたりもする。いろいろやるわけですよ。日本にいたっては一般企業の社長さんクラスでも人前で喋るためにアナウンサー学校に通ったして、説得力のあることを言えるようにするんですよね。やっぱりそういうのって絶対必要なんですよ。お客さんからお金を取っている以上は、パンクラスとしてもいろいろやるけど、選手としても磨かないと。やはりオーラがなかったらちょっときついですよね。
みのる でも、ここ最近少しずつ変わってきましたね、パンクラスのリング上が。
それは見てて思いますか?
みのる 思いますね。少しずつですよ。一時期、パンクラスのリングが町の道場で練習してリングに上がって戦って勝つことが、自分のお客さんに対してだけのアピールだったんですよ。今もまだそれはちょっと残っているんですけど、勝ったら親兄弟や友達の名前を言ったり……。僕にとって親兄弟、友達はお客じゃないので。オレのことをまったく見ず知らずの人が鈴木の試合を見に行こうとして、買ったもの(チケット)だけが僕の価値だと思っているので。
そうしないと発展性がないのも事実ですよ。興行を考えると、親兄弟、友達を呼ぶと客席が埋まるじゃないですか?
みのる ようはチケットさえ売れれば、それはどんなお客であっても同じお客なんです。チケットを買ってくれるのはもちろん大事なことです。興行会社としたらぶっちゃけ誰にチケットを売れてもいいんですよ。1000席なら1000席、500席なら500席売れさえすれば、別に誰が買おうが構わないんです。1人の人が全席買ったって構わないです。全部友達が買い占めても構わないです。だって入ってくるお金は一緒ですから。興行会社はそのお金を得るためにやるので。でも選手が同じ考えだったら絶対に良くないです。自分自身が商品なので。
自分にどうやって付加価値をつけるか、自分をどうやって売り込むかということですね。
みのる 商店街の商店から企業に変わらなければ人気は出ないですね。商店街だったら2軒隣のおっちゃんと3軒隣のおばちゃんが1日1個野菜を買ってくれる、それだけでうちは生活できるからいいやとなっちゃうじゃないですか。それで発展することはないです。それがスーパーになり、大きな農場を抱えるようなブランドになれば、入ってくるお金も変わるし、野菜自体の価値も上がります。
その辺にパンクラスの未来が託されている気がしますが?
酒井 そうですね。やはり地上波もそうなんですけど、地上波復活は別に僕にとって特別なものではないんです。穴を埋めただけで。どちらかというと、パンクラスの試合を世界で配信していく。これが多分僕はそのアンサーかなと思います。それは商店街じゃなくて、一般企業として。今のMMAのビジネスは映像コンテンツですね。それをいかに世界に買ってもらうか。そのためにはいい興行をしなければいけないです。そこを僕はやり始めています。

鈴木さんはやっぱり生みの親

最後にお互いにメッセージを!
酒井 何か照れちゃうな(笑)。今日インタビューをやらせていただいて、やっぱり生みの親なんだなということをあらためて感じています。なので私としては今日鈴木さんから教わったことを頭に入れながら、心に染み付けながらまい進してまいります。
みのる 今日もう1人の生みの親が来ますので。まだ僕と全く違うので(笑)。だからあの時代が作れたと思っているんですけど、今となっちゃ。まったく違う人格で、考え方も全然違うので、違うもの同士がやるから新しいものが生まれたと思うので、ぜひ彼の話も聞いてみてください(笑)。
あとは何年か前に後輩たちには、いや後輩じゃないですね、弟たちには言ったんですけど、酒井さんにすべて任せます。どうなろうと任せますので、好きにやってください。ただ、離れて10年以上経ちますけど、パンクラスが発展して大きくなったらうれしいですね。
僕はまだまだ現役で頑張るので。今日も今から日本中揺らしますよ。今、新日本プロレスが世界規模でも業績が2位になったらしいんですけど、あんなものつぶしてやりますよ。プロレス界の歴史も何もかも塗り替えられるようにまだまだ頑張ります!!
2015年4月17日 スポーツナビ掲載